学校建築・福祉施設・オフィス・工場をはじめとした設計実績が豊富な建築家・吉田明弘の建築に対する考え方をお伝えしていきます。
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美しい高齢者施設をつくる。
◯高齢者施設計画における建築家の役割とは。
高齢化は急速に進んでいます。平成27年には、65歳以上の総人口に体する割合(高齢化率) は26%になると言われています。ユニット型特別養護老人ホームの創設はこれまで「施設的」と言われた高齢者をとりまく住環境を「住宅」と呼ぶにふさわしい施設整備へと変遷しています。国庫補助による行政主体の福祉から利用者自身がサービスを選択する契約制度への移行に伴い、事業者は建設事業を伴いながら福祉事業を行っているという認識が必要な時代になってまいりました。このことは利用者が施設を選択する競争の時代に入ったとも言えるのではないでしょうか。一方、孤独死の問題や地震等の災害を教訓にとして、地域のあらゆる人が支えあう気持ちを大切に、いきいきとした地域社会を創造していく必要にも迫られていいます。このような状況の中で「建築家の発想」を高齢者福祉施設にどのように取入れ発展させることが可能でしょうか。私が日頃考え、これまでの仕事のなかでいくつか試みてきたことを紹介したいと思います。
2012年7月26日木曜日
フロイデ彦島
◯事業者は「建築家」に何を期待しているのか
私、吉田明弘はこれまで山口県下関市のケアハウス・グループホーム・デイケアセンター(フロイデ彦島)、同県山口市の老人福祉施設(ハートホーム宮野)など高齢者施設の設計をして参りました。
事業者は建築家に何を期待して選定したのか、私たちの場合以下のように考えました。
・脱ステレオタイプ/脱”施設っぽさ”を目指したい。
・唯一無二の個性を施設に与え、「利用したくなる魅力」を与えたい。
→「固定観念」にとらわれない建築家の自由な発想に期待したい。
◯事業者に対して私たちが示した設計姿勢
・徹底的にコミュニケーションを重視する。
・打合せでは常に複数案を用意し、
立体的な模型をたくさんつくって説明する。
・景観デザインに関わってきた経験を生かして、
常に周辺環境への配慮を念頭に提案を行う。
・戸建て住宅の設計と同じ繊細さで設計に臨む。
・新しい構造や工法を積極的に提案する。
建築を「作品」と考えている私たちが常日頃行っている当たり前なことなのですが、このような姿勢は事業者の目に新鮮に映ったのかもしれません。特に模型による検討とプレゼンテーションは事業者と空間を立体的に共有することを可能にし、大変喜んでいただきました。
模型
◯作品の経緯
(設計監理;大野秀敏+アプル総合計画事務所 主任、管理建築士として参加)
私が高齢者福祉施設を初めて設計したのは山口県の医療福祉法人青藍会との出会いからはじまります(芝浦工業大学教授中野恒明氏の紹介によります)。それまで全く経験が無かった老人福祉施設の設計に際し、これまでに多くの設計者や研究者が確立したマニフェストを十分に学習理解する間もなく、建築家の発想と理想を半ば一方的にプレゼンテーションしていた私達に対して、青藍会は時には厳しく、時には理解を深めて暖かく接していただき、学習と実践の機会を頂きました。この施設の中にはその後の活動の嚆矢となる重要なコンセプトが含まれています。※詳しくは別の記事(高齢者施設設計で大切にしている9つのテーマ)にて説明いたします。
「ハートホーム平川」によって実現した成果は竣工とともに新たな展開につながって参ります。竣工式に訪れていた下関の医療福祉法人松涛会が施設に感動していただき、設計依頼となりました。それが平成17年完成の「フロイデ彦島」です。設計に際しては「ハートホーム平川」にて試みたコンセプトを海に面した高台上という絶好の敷地のポテンシャルを生かして発展させたものとなっております。この作品は医療福祉建築賞、BCS賞受賞など高い評価を頂きました。
・フロイデハイム
「フロイデ彦島」に程近い場所にデザイン監修(設計監理は伊佐事務所)したユニットケア型の特別養護老人ホームです。コンセプトはこれまでの考えを継承していますが、奥行きの長い敷地に対してと絶景を取入れたリビングの配置に苦心しました。外壁に設備機器を隠す緑化籠など、新しい要素も提案しています。
この施設は高齢者福祉施設ではなく企業診療所(医療施設)ですが、利用者と自然環境との関係、時間とともに自然と調和する新しい外装(ラス型枠表しRC)の実践、スリット開口から差し込む太陽の光による空間の劇的な演出、空間の分節など、これまでの老人福祉施設のコンセプトを基に新たな展開にチャレンジした作品となっています。(建築学会作品選奨受賞)
最新作です。地場の林業産業と地球環境に貢献したいという社会福祉法人青藍会の要望を受けて、単一構造の木造軸組耐火構造としては国内最大規模(平成23年時点)となるチャレンジングな仕事でした。木のまち整備促進事業の国庫補助を受けて建設されました。既存棟の増築となる変形敷地に対して書院建築に通じる中庭と雁行平面によって既存棟や周辺環境への圧迫感を軽減すると共に、外壁の木ルーバーと合わせて木肌が表せない耐火木造の内部空間に日本的なシークエンスを与えています。
・プロジェクトW
神奈川県に計画中のサービス付き高齢者住宅の計画案です。木造戸建風集合住宅として階段を上れない利用者に配慮した空中歩廊によって介護事業所やレストランの入るセンターハウスと連結させています。フレキシビリティを最大限にした住戸とともに先例のない画期的な住環境を提案しています。
©2012- yoshida design workshop